ある雨の日|優木|note
雨が降っている。 私は行きつけの喫茶店で、最近やっと慣れてきたコーヒーの苦味を舌の上で転がしていた。 時計は午後5時をまわっている。 白いシャツをぴしっと着て、常に笑顔を纏いながらキビキビと働く店員たち。指先の皮膚とエプロンだけが、彼らの努力を滲ませている。 私は雨の日の喫茶店が好きだ。 平日の夕方の仄暗い店内で、ひとり本やノートを広げていると自然と呼吸が深くなる。 なんて豊かな時間だろうか。 心は研ぎ澄まされ、やさしく世界と対峙する。 白くぽってりとしたカップが、もう空になってしまった。 追加の注文をするほどの余裕は、私にはない。
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