2021.09.04 00:56言葉の国で笑いたい 王さまは恋をした。はじめての恋だった。 恋をした王さまは、よく泣くようになった。ふとした瞬間に、わけもなく涙が出る。いや、わけはあるのだ。しかし王さまはわからなかった。この気持ちがどんな色で、どんな形をしているのか。わからないから、苦しかった。 王さまはやさしい王さまで在りたかったから、みんなを平等に扱う努力をしてきた。話をする時は、みんながわかるように簡単な言葉を選んだ。そうやってみんなにやさ...
2021.05.25 00:21月と太陽の子供たち 「……ない」 部屋中探してみたものの、見つからなかった。 どうしても今読みたい一文があったのに。その本はどこにもなかった。 まあいいさ。あの本屋ならまだやっているはず。 俺は、真夏のやけに鮮やかな夜の中を、自転車に跨り走り出した。 あったあった。これだ。 ずらりと並んだ本の群れの中からその一冊を抜き出してそっと開いた。文庫本特有のつるりとした表紙がかすかに冷たくて、心地良い。 失くしたって、代わ...
2021.05.25 00:18東京 真昼の東京。突如窓に現れたそれ。同じ窓ばかりのビル、でかいだけのダサい広告、チカチカする視界。 …バカみてえな街。頭の中で吐き捨てた。 「興味が持てないの。彼に」 久しぶりに会った友達は、また偽物の恋に疲弊しているらしい。(つづくかも)