言葉の国で笑いたい


 王さまは恋をした。はじめての恋だった。

 恋をした王さまは、よく泣くようになった。ふとした瞬間に、わけもなく涙が出る。いや、わけはあるのだ。しかし王さまはわからなかった。この気持ちがどんな色で、どんな形をしているのか。わからないから、苦しかった。


 王さまはやさしい王さまで在りたかったから、みんなを平等に扱う努力をしてきた。話をする時は、みんながわかるように簡単な言葉を選んだ。そうやってみんなにやさしくすることが正しいことだと信じてきた。

 けれども王さまは恋をして、いろいろなことがわからなくなってしまった。今抱えている気持ちも、やさしさとは何なのかも、正しいことがほんとうに正しいのかも、わからなかった。


手の中の秘密基地

優希

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